不動産の名義変更において、贈与によるか相続によるかは、それぞれの状況によってメリット・デメリットが異なります。どちらが良いかは一概には言えず、税金、手続きの手間、将来の見通しなどを総合的に考慮して判断する必要があります。
以下にそれぞれの方法の主な特徴を挙げます。
贈与による名義変更(生前贈与)
メリット
・所有者の意思が反映されやすい
贈与者が元気なうちに、誰にどの不動産を渡すかを明確に決められます。
・遺産分割協議が不要
相続発生後の相続人同士の揉め事を防ぐことができます。
・特定の人への財産移転
特定の相続人や相続人以外の人に確実に財産を渡したい場合に有効です。
デメリット
・贈与税が高い場合がある
相続時精算課税制度を利用しない限り、贈与税は相続税よりも税率が高く設定されています。贈与税の基礎控除額(年間110万円)を超えると課税されます。
・特例の適用要件が厳しい
相続税には様々な控除や特例(小規模宅地等の特例など)がありますが、贈与税にはその多くが適用されません。
・不動産取得税・登録免許税がかかる
贈与の場合、不動産取得税(贈与税とは別)がかかるほか、登録免許税も相続よりも税率(20/1000)が高くなります。
・贈与者の財産減少
贈与により贈与者の財産が減るため、贈与者の老後の生活資金などに影響が出る可能性があります。
・相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される
相続税対策として贈与をしても、相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に加算され、相続税の対象となる場合があります。
相続による名義変更(相続登記)
メリット
・贈与税がかからない
相続によって財産を取得するため、贈与税はかかりません。
・相続税の控除・特例が適用される場合がある
小規模宅地等の特例や配偶者控除など、相続税には税負担を軽減する多くの特例があります。これらを適用できる場合は、大幅に税金を抑えられる可能性があります。
・不動産取得税がかからない
相続による名義変更の場合、不動産取得税はかかりません。
・登録免許税が安い
登録免許税は贈与よりも低い税率(4/1000)で済みます。
デメリット
・遺産分割協議が必要な場合がある
遺言書がない場合や、遺言書の内容と異なる分割をする場合など、相続人全員での遺産分割協議が必要となり、意見がまとまらない場合は争いになる可能性があります。
・手続きが煩雑になることがある
相続人が多い場合や、複雑な相続関係がある場合は、戸籍謄本等の収集や手続きが煩雑になることがあります。
・相続発生後の手続きとなる
被相続人の死亡後に手続きを行うため、被相続人の生前の意思を直接確認することはできません。
・相続税の支払いが発生する可能性
相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超える場合は、相続税が発生します。
どちらを選ぶべきか?判断のポイント
1.税金の問題
贈与税 vs 相続税
不動産の評価額、贈与を受ける人や相続人の数、他の財産の状況によって、どちらが税金面で有利かは大きく異なります。専門家(税理士)に試算してもらうのが最も確実です。
不動産取得税・登録免許税
これらも考慮に入れる必要があります。
2.関係者の状況と意向
贈与者の意向
贈与者がいつ、誰に、どのように財産を渡したいと考えているか。
贈与を受ける人・相続人の状況
不動産を受け取る側の経済状況、今後の居住予定など。
相続人間での合意形成
相続人同士の関係性や、遺産分割協議がスムーズに進む見込みがあるか。
3.不動産の将来性
値上がりの可能性
将来的に不動産が値上がりしそうな場合、生前贈与で評価額を固定しておくことが有利なケースもあります。
4.手続きの手間と時間
贈与は比較的手続きが簡潔な場合が多いですが、相続は遺産分割協議の有無や相続人の数によって煩雑になることがあります。
まとめ
贈与と相続、どちらが最適かは、個別の状況によって大きく変わります。税金面で最も損をしない選択をしたいのであれば、必ず税理士に相談し、シミュレーションを行ってもらうことを強くお勧めします。
不動産の名義変更は高額な資産が関係するため、専門家の知識と経験は不可欠です。司法書士は登記手続きの専門家ですが、税金に関するアドバイスは税理士の専門分野です。これらの情報を参考に、ご自身の状況に合った最適な方法を検討してくださいませ。