相続分の譲渡と相続分の放棄は、どちらも自身の相続分を不要とする意思表示ですが、法的な性質と効果が異なります。
相続分の譲渡
相続分の譲渡は、遺産全体に対する自己の持分を、他の相続人や第三者に譲り渡すことです。
効果:譲渡した人は、遺産分割協議から離脱できます。しかし、相続人の地位を譲渡したわけではないため、被相続人に債務があった場合、譲渡人も債務を負うことに変わりはありません。
手続き:譲渡人と譲受人の間で合意すれば成立し、相続分の譲渡証明書と印鑑証明書を譲受人に交付します。また、期間の制限はなく、他の相続人の同意も不要です。
相続分の放棄
相続分の放棄は、遺産分割協議の中で、自己の相続分を不要とする意思表示です。その相続分が他の相続人に割り振られることになります。
効果:相続分の放棄をした人は、遺産を受け取る権利を失いますが、相続分の譲渡と同様に、被相続人の債務の返済義務は残ります。
手続き:家庭裁判所での手続きは不要で、遺産分割協議の中で他の相続人へ意思表示し、遺産分割協議書にその旨を記載して、相続分の放棄をした人も含めた相続人の全員が署名して押印すれば成立します。
相続分:放棄された相続分は、他の共同相続人に各相続分に応じて配分されます。特定の相続人にのみ放棄することはできません。
相続放棄との違い
相続分の放棄と混同されやすいのが「相続放棄」です。これは家庭裁判所に申し立てることで、はじめから相続人ではなかったこととする法的な手続きです。
効果:相続放棄が受理されると、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナス財産も一切相続しません。
手続き:相続の開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
相続権:相続人としての地位そのものを失うため、遺産分割協議に参加する必要もなくなります。放棄された相続分は、次順位の相続人へ移ります。