相続財産清算人という制度はご存知でしょうか。これは令和5年の4月から始まった、従来の相続財産管理人制度をより利用しやすくした制度と言えます。
旧制度、つまり相続財産管理人制度は、相続人が不明な故人の財産の管理を、管轄の家庭裁判所が管理する人を選任する制度で、令和5年3月まで適用されていました。例えば、財産を管理する必要が生じる状況としては、アパートやマンションを貸していた大家さんが故人の部屋を明け渡す手続きをする場合や、故人にお金を貸していた人が返済を求める場合、または、相続人ではない親族が故人の医療費や生活費を立て替えた場合などが挙げられます。
また、故人と親族関係にはないが、長く日常生活のお世話をしていた(特別縁故者と呼ばれる)人も、相続財産の一部を請求することも可能です。
新たに設けられた相続財産清算人制度は、上記のような旧制度と同様の目的を持つものですが、重要な違いがあります。それは、制度の申請から財産の清算、特別縁故者への財産の分配までのプロセスが大幅に短縮されていることです。
旧制度では、手続きの開始から完了まで最短で1年1カ月が必要でした。長い手続き期間と、裁判所から任命された相続財産管理人への報酬や業務手数料を一時的に支払う必要があり、これらの費用が通常50万円~100万円と高額であったため、手続きを断念する人が多かったようです。
そこで新制度の相続財産清算人制度では、手続き期間が大幅に短縮されています。制度の申請から財産の清算までの流れは以下の通りです。
- 相続財産清算人の申立書を提出(故人の住所地の家庭裁判所)
申立書を提出してから約2ヶ月で相続財産清算人が選任されます。 - 家庭裁判所による公告
相続財産清算人の選任と、相続人と思われる人への権利主張の呼びかけを官報で公示します。この公告期間は6ヶ月以上です。 - 相続財産清算人は①の公告期間中に、債権者や受遺者に請求するように2ヶ月以上の期間を定めて公告を行い、公告満了後に弁済等を行います。
- ①の公告期間が終わると、相続人の存在の有無が確定します。この公告期間満了後、3ヶ月以内に特別縁故者が財産分与の請求を家庭裁判所に行います。
なお、相続財産清算人は故人が持っていた不動産の売却も行うことが可能で、手続き期間の短縮により、不動産の売却が早まり、立替金等の返還も早まることとなります。
相続財産清算人制度を利用するためには、配偶者、子、両親、兄弟姉妹などの相続人が存在しない場合、または全ての相続人が相続を放棄した場合のみ適用されます。そのため、相続人の存在についての十分な調査が必要となります。