遺言執行者とは
皆さまは遺言の手続きを行う遺言執行者の存在はご存じでしょうか。「執行者」という語感からなにか厳格な身分で法律の専門家しか就任できないようなイメージがあります。しかし遺言執行者は未成年者や破産者などの一部の例外をのぞき、特に法的な資格は必要なく誰でも就任することができます。遺言執行者に就任するには遺言で遺言執行者を指定するか、遺言者の死後に家庭裁判所で選任する方法がありますが、多くは遺言で指定されているかと思われます。
遺言執行者の役割
遺言執行者は遺言の内容を実現するための手続きを行います。具体的には不動産の名義変更、預貯金を払い戻して相続人の口座に入金したり、時には遺言による子供の認知の手続きを行ったりもします。遺言執行者が行う相続手続きはとても広範なものですが、令和元年7月から施行された改正民法では遺言執行者の義務として相続人へ通知義務が追加されました(民法1007条2項)。
遺言執行者の通知義務
この通知の対象である相続人は、遺言書で財産を取得する相続人だけではありません。財産を取得しない相続人へも通知しなければなりません。むしろ財産を取得しない相続人にこそ通知すべきという趣旨が見え隠れしているように感じます。遺留分侵害のある遺言書の内容に、財産を取得できない相続人に異議を申し立てる機会を付与するためなのでしょう。驚くべきことに上記の通知は遺留分を請求する権利のない兄弟姉妹の相続でも行うべきとされています。平成19年の最高裁の判決では遺留分侵害額請求権の無い兄弟姉妹に遺言執行者が通知しなかったケースで、遺言執行者に対する損害賠償が認められたのです。それでは相続人達に対して何を通知すべきなのでしょうか。民法1007条2項では遺言の内容を通知すべきと記載されていますので、遺言書のコピーを交付します。また遺言執行者は相続財産の目録を作成して相続人に交付すべき義務もあります(民法1011条)。遺言書のコピーを相続人に送付するのと同時に財産目録も送った方が遺言執行者の負担も軽減しますし、書類を送付される相続人側も複数に書類を分けて受領するよりも、相続に対する判断と対応も早まるかと思われます。